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研究事例

光学衛星画像を利用した水深測定手法の検討

先進光学衛星ALOS-3は、前身であるALOSと同じRedバンド、Greenバンド、Blueバンド、NIRバンドに加え、Red Edge (レッドエッジ) バンドとCoastal (コースタル) バンドが新たに搭載されています。Coastalの波長帯は水中で減衰しにくいため、沿岸域の観測に有効です。
株式会社パスコでは、Coastalバンドの有効的な利用検討のため、光学衛星画像を利用した水深測定手法の研究を行っています。本記事では、研究内容を紹介します。

【実験の目的】
沿岸海域における海底起伏や海底被覆情報は、沿岸開発や環境保全に有用な情報です。
しかし、既存の水深データは現実の細かい起伏が含まれておらず解像度が粗く、ナローマルチビーム*や航空グリーンレーザなどのセンサーによる測深では広範囲の情報取得には高額な費用がかかるなどの課題があります。こうした中近年、光学衛星画像を利用した水深推定手法が検討されています。検討の目的は、沿岸浅水域における水深調査や海底被覆分類の調査についてコスト削減や作業性の向上です。沿岸浅水域における地形調査手段の1つとして期待されています。
株式会社パスコは、近く打ち上げ予定のALOS-3のCoastalバンドの利用検討を目的とし、光学衛星画像からの水深推定結果とナローマルチビーム測深結果の比較を行い、実用に向けた課題の整理を行いました。

*水中の物体を、音波を利用して探知する機器であるナローマルチビームソナーを使用し、指向性の鋭い超音波を扇状に送受信することにより1測線で水深の2~7倍の幅の海底を一度に測量することができます。


【実験方法】
■調査手法
対象となる伊豆半島の南東部沿岸海域について、まず、2021年7月に現地調査にて深浅測量及び海底被覆調査を実施しました。
次に、同年1月撮影のWorldView-2画像と7月撮影のSPOT6画像について、海底被覆分類及び水深の推定を実施します。光学衛星画像は、ALOS-3画像の活用を想定し、Coastalバンドを搭載しているWorldView-2の画像データと、広域観測に適したSPOT画像を使用しました。2つの結果比較により、光学衛星画像を使用した水深推定手法の精度検証を行いました。実験の詳細は以下の通りです。

1.現地調査
マルチビーム深浅測量及び水中カメラによって海底地形及び被覆状況の面的な調査を実施しました。
・現地調査海域 : 静岡県下田市沿岸(解析対象海域の一部)
・調査時期 : 2021年7月14日
              
2. 光学衛星画像取得
現地調査海域周辺の浅水海域について2種類の光学衛星画像を
取得しました。
解析対象海域 : 伊豆半島南東部沿岸海域(13.7km2)
解析に使用した衛星画像 :
① SPOT6 / 2021/7/22撮影
② WorldView-2 / 2021/1/29撮影
※②は現地調査時期の画像が得られなかった
  
   表1.png   
図1.png
■解析手法
解析手法のフローは以下の通りです。
図2.png 1.画像前処理・底質指標の算出
底質指標(Lyzenga D. R., 1978等を参考)を元に各画素を3種類(砂、岩、砂・岩混合)に分類します。
2.水深推定式の算出 [現地調査海域の一部]
現地調査で得た一部の深浅測量結果を用いて、1.で分類した底質分類毎にDN値からの水深推定式を作成します。
3.水深ラスター作成
分類領域毎に各推定式により水深推定画像を作成し、統合します。
水深推定画像作成後、推定式作成に用いていない水深データ(現地調査エリア内で取得した検証点300点)と水深推定値を比較し、水深データの精度評価を行いました。また、底質分類結果は、水中カメラ映像を元に分類正誤を確認し精度評価を行いました。


【実験結果】
現地調査を行ったエリアでの精度検証結果を下図に示します。
図3.png 現地測深結果と光学衛星画像の解析を比較して分かる通り、SPOT6画像は沿岸から沖合へかけての水深の変化は比較的再現が可能であることが分かりました。また、類似画素群毎の水深推定では、どちらの衛星画像でも水深の変化を再現することができました。底質分類の精度が全体的に高かったことが要因と考えられます。
しかし、冬(1月)に観測されたWorldView-2画像の「岩」に分類されたエリアではDN値の水中での減衰が見られず、7月の現地調査で得た深浅測量の値と差異がある結果となりました。本画像については、周辺類似画素群の中でもDN値のばらつきがい多い結果となりました。また、ノイズ削減に向けた衛星画像の白波除去後、再度検証を実施した結果は、SPOT6画像は検証結果(水深推定精度)に変化なし、WorldView-2画像は水深推定精度が向上する結果となりました。
現地調査と同じ夏季に観測されたSPOT6画像から算出された水深推定式は精度が高かったことから、衛星画像の観測が合わなかったことが要因の一つではないかと推測されます。WorldView-2と搭載バンドが類似しているALOS-3データの活用に関して、現地調査時期と衛星画像観測時期を近づけることで、季節による底質変化のエラーを最小限に抑えることが可能となり、水深推定精度の向上にもつながると考えられます。

今後の課題

実用に向けた大きな課題として、現地調査時期と衛星画像の撮影時期を合わせられない場合の対応や、浅瀬や冬画像で多く見られた細かなDN値のばらつきとその水深推定への影響があげられます。水深推定精度向上に向けて調査・解析方法の再検討を実施するとともに、実用性向上に向けて、浅瀬での適用条件の精査や底質分類の詳細化の検討を進めていきます。合わせて、底質分類における効率化の検討も行っていきます。

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