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研究事例

Red Edgeバンドを活用した松くい虫被害*木の抽出

JAXAが開発中の先進光学衛星ALOS-3は、前身であるALOSと同じRedバンド、Greenバンド、Blueバンド、NIRバンドに加え、Red EdgeバンドとCoastalバンドが新しく搭載される予定です。植生の健康状態の把握に適しているRed Edgeバンドは、林業分野における広域なエリアの状況把握への活用が期待されています。

信州大学の加藤正人教授は、光学衛星の林業分野での研究実績と知財発明者として、「先進光学衛星利用検討のための林業分野における有効性評価」に関するテーマに関し、2017年度にJAXA委託業務を実施しました。
本記事は、ALOS-3利用検討のための林業分野における有効性評価を目的として2017年度、加藤正人教授により行われた、Red Edgeバンドを利用した松くい虫被害区分の検証結果の一部をもとに作成しています。

*松くい虫被害:マツノザイセンチュウという体長1mm程度の線虫が松の木の体内に入ることで、樹木が水を吸い上げられなくなります。これにより樹木が枯れてしまうことを指します。この線虫を松から別の松へと運ぶのがマツノマダラカミキリというカミキリ虫です。5~7月頃にマツノマダラカミキリによって運ばれたマツノザイセンチュウが松に侵入し、秋頃に松枯れの現象が表れ始めます。

ALOS-3の搭載バンドとRed Edgeバンドの特性

ALOS-3の搭載バンドと波長帯は以下の通りです。

バンドの波長帯_2.png
Red Edgeから近赤外の波長帯は、健康な植物からの反射が強く、植物の分布やその健康状態などの把握に有効です。
下図では、植物の健康状態に応じた反射の様子を示しています。

分光反射特性_3.png
一例として松の健全木、枯死木、感染木の葉を採集し、分光スペクトルを測定して、分光反射特性を調べた結果を以下に示します。

図2.png 図2で示している通り、Red Edgeバンドの波長帯である690nm~760nmのあたりでは、健全葉と枯死葉、感染葉の分光反射率に大きな差が出ていることが分かります。
この特性を活用し、衛星データから松くい虫の被害について健全木・感染木・枯死木の区分を行う実験を行いました。

松くい虫被害の区分におけるRed Edgeバンドの有用性評価

【実験の目的】
JAXAが開発中のALOS-3は、2006~2011年打上げのALOSの後継衛星として、大型化・高性能化したセンサを搭載することにより、広い観測幅 (70km) と高い地上分解能 (80cm) を持っています。
日本の森林は、4割を占める人工林1千万haが利用期を迎えており、資源の有効利用が求められています。しかし、森林調査、収穫調査や検査業務は人海戦術が中心であり限界にきています。森林全体の広範囲にわたる状況把握は大変難しいため、リモートセンシング技術を利用した管理が期待されています。
そこで、森林・林業県でもある長野県及びその周辺域の樹木を対象とし、ALOS-3の観測バンドを用いた、松くい虫被害の区分について有用性の評価を行いました。

【実験方法】
図3に加藤正人教授が開発した松くい虫の被害区分算定方法、及び松くい虫被害算定装置 (特許6544582) を含む樹種分類解析プログラムのフロー図を示します。

樹種分類の流れ図_3.png 本算定方法では樹木から反射分光スペクトルの違いを利用し、アカマツの松くい虫の被害区分を分類することが可能であり、ALOS-3の空間分解能をシミュレーションした衛星画像を解析することで、松くい虫の被害区分図 (健全木・感染木・枯損木) を作成しております。
また、今回の解析結果では示していないですが、航空機LiDARデータのDSMとDTMの差分から作成したDCHM**を用いて、広範囲かつ高精度に樹頂点を抽出し、一本単位での樹木位置・本数、樹冠面積、胸高直径、材積量を高精度に半自動で算出すること、さらに他時期の航空機写真や衛星画像と比較することで経年変化を捉えることも可能となります。

**DCHM : Digital Canopy Height Model。樹冠表層の高さモデル。

【解析結果の一例(異なるバンド数を利用した場合の分類精度の比較)】
ALOS-3に搭載する観測バンドについて、Blue, Green, Red, NIRバンド (ALOS相当) を使用した場合と、それらに加えてRed Edge, Coastalバンドを使用した場合の精度の比較を行いました。
ALOS-3相当のマルチスペクトル (MS) の空間分解能 (3.2m) で、以下のバンドでそれぞれ比較検証を行いました。
① Blue, Green, Red, NIR 4バンド
② Blue, Green, Red, NIR, Red Edge 5バンド
③ Blue, Green, Red, NIR, Coastal, Red Edge 6バンド
それぞれのバンドによる検出結果精度は以下の通りです。
                     
    4バンド_3.png         5バンド_3.png         6バンド_3.png    

① Blue, Green, Red, NIR 4バンド → 93.0%
② Blue, Green, Red, NIR, Red Edge 5バンド → 94.0%
③ Blue, Green, Red, NIR, Coastal, Red Edge 6バンド → 94.5%
解析に利用できるチャンネルが増えることで、解析精度が少しずつ向上しました。

今後への展開

本検証では、松枯れ被害の区分をRed Edgeを含む6つの波長帯により、高精度に識別できる可能性が示されました。
加藤正人教授は、松くい虫の被害区分算定方法を用いて、衛星データからナラ枯れ被害の面積や被害分布の抽出を試行し、松くい虫被害の抽出方法がナラ枯れ被害へも適用できるかの検討を行っています。また、現地の森林管理機関を通じ、ナラ枯れ被害対策協議会での活用と現地検証をすすめています。

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